陶芸家になるには

陶芸

結論から申し上げますと、陶芸家には誰でもなれます。

極端な話、あなたが陶磁器を作っていて「私は陶芸家である」と家族や友人に主張すれば、その時点で陶芸家です。

当然、資格も学歴も一切必要ありません。土と創作意欲さえあれば誰でもなれる夢のような職業。

 

ですが……

 

陶芸家として生計を立てるのは、極めて難しいことです。どれだけ難しいかご説明したいと思います。

これから陶芸家になりたい方は、参考程度に読んでいただければ幸いです。

 

 

練習時間を確保するのが大変

陶芸の成形技法はいろいろありますが、最もポピュラーなのはろくろ成形です。みなさんも、陶芸家というとろくろを回している姿を思い浮かべるのではないでしょうか。

窯元で修行して独立する場合、給料が安くて貯金にまわす余裕もないでしょうから、ろくろ成形以外の技法は設備投資の費用がかかり過ぎるため現実的ではありません。手びねりやタタラ成形なども低予算で始められますが、あくまで他の成形技法のサブ的な仕事です。時間を要する成形技法をメインの仕事にするのはかなり厳しいです。

 

ろくろ成形は、電動ろくろと自分の体さえあればよく、しかも慣れてくれば早く作れるようになり、低コストで量産することが可能です。(機械には勝てませんが)

つまり、ろくろ成形の技術を身に付ければ、陶芸家としてなんとかやっていけるようになる訳ですが、ろくろの技術は身に着くまで、最低でも10年くらいかかります。

なぜ10年もかかるのかと言うと、陶芸家を志すほとんどの人は窯元などで働き、仕事が終わった後にろくろの練習をせざるを得ないので練習できる時間が少ないからです。作れもしないのに仕事中には、ろくろを触らせてもらえません。

 

石膏型を使う機械ろくろや鋳込み成形などは、数をこなしているうちに安定して作れるようになるので、比較的早いうちに任されることが多いです。

仕事が定時の18時に終わるとして、せいぜい2~3時間くらいしか練習する時間がありませんよね。それ以上頑張ると生活に支障をきたし、体や精神を壊しかねません。仕事の後ですから体力的に毎日練習するのはキツイですし、職場の電動ろくろを借りている場合は、職場の都合で使えない日もあるでしょう。

 

実家暮らしで親が面倒を見てくれる人はまだ何とかなりますが、1人暮らしの人だと仕事が終わって、ろくろの練習をし、買い物をしてそれからご飯を作り、お風呂に入って……

確実に寝るのは夜中になってしまいます。コンビニ弁当を流し込んで時短する手もありますが、そんな生活は長く続きませんよ。

練習を積み重ねある程度作れるようになって、仕事中にろくろができるようになれば半分の5年程で習得できるかもしれません。まあ実際に製品を作るのと練習は全然違うので練習だけ10年続けても、ものになるかどうかも分かりません。

 

 

自己流では上達しにくい

じゃあ修行なんかしなくても、職業訓練校か陶芸教室でそれなりに学んで、後は適当にアルバイトでもしながらお金を貯めつつ、練習に没頭すればいいんじゃないかと思いますよね。

しかし、そう上手くはいきません。

こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、職業訓練校の先生も陶芸教室をメインでしている先生も本業では食べていけなっかた人たちです。基本的な知識や技術は教えてくれても、高度な技術、そこから先の「どうすれば陶芸で成功できるか」という重要な部分は教えることができません。

陶芸教室の先生でも、中には技術と人格の優れた方もいらっしゃいますが、自称を含めると星の数ほどいる陶芸家の中から見つけ出すのは至難の業です。

 

陶芸家などの芸術家と呼ばれる人たちは、センスがないとできない仕事だと思われがちですが、はっきり言ってセンスや要領のよさはそんなに関係ないです。楽器の演奏と一緒で、レベルの高い指導者に教わり、とにかく繰り返し練習するしか上達する方法はありません。

たまに「私は独学でここまで極めました~」って感じでテレビに出てくる人いますよね。それは独学でも正しい方法で努力を積み重ねた稀な人です。

 

ろくろも基礎を身に着くまで練習し、ある程度形になってきたら、そばちょこ→茶碗→袋物→丼→皿、というような順番で徐々に難易度を上げていき、どんどん作れるものを増やしていくことが大切なのです。

それを教えてくれるのは、本業でバリバリ仕事をしているプロの陶芸家のみです。上っ面だけマネして有名になっても、基礎の上に成り立つ技術が無いと一過性のブームですぐに消えるでしょう。

あなたは自分の作品を客観的に見定めて、瞬時に修正箇所を発見できますか。できる方は1人っきりでコツコツ練習しても問題ないと思います。

 

 

まともな陶芸の先生を見つけるのは困難

さて、ここまで読んでいただいた方には、師匠に教わりながら繰り返し練習しなければ、上達が遅くなることがお分かりいただけたと思います。

実はここからが1番問題です。

それは、正しい指導をしてくれる師匠を見つけるのは容易ではないということです。

面談や職場見学したぐらいでは、師匠の性格もわかりませんし、どれくらいの技術を持った人なのかも判断しにくいですよね。実際にそこで働いてみないと分からないということ。

 

最近の小規模な窯元は、どこも売上が伸び悩んでおり、新たに人を雇うところは少ない傾向です。雇ってくれたとしても低賃金で育てる気もさらさらありません。右も左も分からない若造を育て上げたところで、ようやく利益を生み出すようになった頃には独立されてしまいますからね。経営者側からすると何のメリットもないし、ただライバルが増えるだけです。

窯元経営者自ら、技術の必要なろくろ成形や絵付けなどをして、その他の面倒な雑務だけを弟子なり従業員なりに任せてしまおうと考えるのは、至極当然なことです。そんな誰でもできる仕事ばかりやっていても、一生独立はできないし賃金が上がることもありません。

30年くらい前までは、住み込みの無給か、お小遣い程度の給料を支払えば済んでいたから弟子を育てると言う事が成り立っていたのでしょうけど、今はそういう訳にもいきませんからね。ですからこういう考えの師匠に弟子入りしても、馬車馬のように働かされてそれで終わりです。

 

ちなみに多少利益が出ている窯元に入れたとしても、給料は10~18万くらいです。
昇給もボーナスもないところが多く、手取り額はもっと低いですから、遅くても22歳くらいから修行に入ってめちゃくちゃ努力して30歳くらいまでに独立しないと、かなり惨めな思いをすることになります。

そうは言っても雇われている時よりも独立した方がもっと大変なので、ただ単に「陶芸の仕事が好き」という人はどんな環境でもいいと思いますから、多少不満があってもしっかり給料を払ってくれるところに雇われ続けた方が幸せかもしれませんね。

技術があって、独立しても通用するように厳しく育て上げてくれる師匠はそうはいません。自分自身も師匠を見定める眼力と、厳しい修行に耐えうる忍耐力がないとなかなか難しいです。

 

 

ろくろは陶芸の一部分にすぎない

陶芸の主な作業は、成形、絵付け、焼成の3つで、どれも生涯を賭けて追及しても足りないほどの仕事だと言われております。前にもご説明した通りろくろだけでも、ものになるのに時間が掛かるのに、さらに、絵付けや焼成、施釉、窯詰めなど数えきれないくらいやることがあります。

つまり、ろくろばかり回していてもダメで、陶芸家を目指すのであれば、全ての業務を平均的にそつなくこなさないといけません。反対に、大きい製陶所の職人として働きたい方は、一つのスキルを磨き上げればいいと思います。

 

ろくろや鋳込みなどの成形は確かに重要です。成形が未熟な器にどんなに素晴らしい絵付けをしても、売れることはないでしょう。むしろ成形がしっかりしていれば、シンプルなデザインの器でもそれなりに売れます。ですから成形にウェイトを置くのはいいことです。

しかし、陶芸は総合力ですので突出した技能は必要ありません。もちろん全ての業務を最高のレベルにしようと努力するのはいいですが、何かを犠牲にしてまでもする必要はないです。

 

また、陶芸をビジネスとしてやっていくには、製造だけしていてもダメです。言うまでもなく多くの人は、既に陶磁器を持っており、よほど器好きな人でないと、割れない限り買い足すことは少ないですよね。

人口も減って単身世帯も増えていますし、ますます買い手が少なくなってきているのが現状です。だから、普通に作っているだけではまず売れません。競合他社の中から、自分の作った商品を選んでもらうためには、広告を出し宣伝もして、小売店や飲食店などに営業に行かないといけません。

何回か顔を出すうちにお店の人と仲良くなって、小売店に置いてもらえるようになっても、最初は委託販売がほとんどです。信用がないので買い取ってはくれず、お客さんの反応や売れる商品なのかどうか見定められます。

 

ネット販売も、片手間でできるような簡単なものではありません。猛勉強して実行に移し、何度失敗しようとも諦めずに改善していける力がないと、目まぐるしく変化するIT系のことには手を出さない方が無難です。中途半端にやると、かえって損失が大きくなります。

陶芸を仕事にする人は、どちらかと言うと根暗で、外部の人間とコミュニケーションを取りたがらないタイプが多いですが、モノを売るためには嫌でも営業活動をするべきです。しかしながら、製造だけでも大変なため、他の事にはなかなか手が回らないのが現実です。

従業員を雇って、事務や営業をしてもらう方法もありますが、儲かっていないと人は雇えませんよね。
結局、資本力がないところは事業主本人がするしかないです。

 

 

設備投資が高額

頑張って修行を終えて「さあ独立するぞ!」とワクワクするのもつかの間、設備投資の問題がやってきます。窯元の家庭に生まれない限り、設備は全部自分で用意しないといけません。逆に親が陶芸をしているだけでかなりの恩恵を受けられますので、そういう人は有利です。

まず、一番必要で最も費用がかかるものは窯です。焼き物というぐらいですから、どれだけいい器を作っても窯で焼かないことには始まりません。陶芸用の窯は、主に電気窯とガス窯が使われていて、サイズもいろいろあり値段もピンからキリまであります。

 

独立して、1人で営む場合の窯のサイズは、0.4~0.7㎥辺りで自分に合ったものを選ぶ感じなのですが、0.4㎥の小窯でも新品だと200万円前後はします。普通にそこそこの自動車が買えますね。中古は、安い代わりに至る所がボロボロでサビだらけだったり、ぱっと見キレイでも細かいところがダメージを受けていたりと、素人では判断しにくい部分もあります。

1000℃を超える火を扱うものなので、窯、煙突、ガス管の設置も専門業者に頼まないといけませんから、設置費用も馬鹿になりません。たとえ丁寧に使っていたとしても何十年経てば、メンテナンスも必要です。

窯業試験場などの窯を借りれる場合もありますが、割れやすい生の状態の器を毎回そこまで運ばないといけませんし、焼成代も割高です。そんな状態では利益を出すのも難しく、焼成(本焼き)の時は数十時間その場所に拘束されることになりますからね。窯は信頼できる築炉メーカーから新品を購入して、設置もしっかりやってもらった方がいいと思います。

 

次に高額なのは、真空土練機で、これも中型のものだと200万円くらいします。砥部の土は、基本的にフィルタープレスから抜いたままの状態で買うため、持っていた方が何かと便利です。他の産地は土練機で練った状態で買えるところが多いようなので、なくても仕事はできます。少量なら菊練りで十分ですし、それに今はネットでも買えますからね。でも土の管理はひと手間増えます。

その他、電動ロクロ、エアーコンプレッサー、作業台、棚、道具類など合わせて数十万はかかり、もちろんそれらを設置する工房も新築するか借りないといけません。大量生産を目指すなら、石膏型、機械ロクロ、圧力鋳込み成形機、攪拌機、ローラーマシンなどなど、全て導入していたら莫大な費用が必要になります。

 

設備投資にコストがかかるからといって、全てを手作業でするのも骨が折れますから、ある程度は機械も導入するべきだと思います。そのため、修行中は一切遊ばずに最低でも1000万円くらいお金を貯めておく方が賢明です。

月に10万円ずつ貯金しても約9年間かかりますから、相当意思が強くないと無理でしょうね。

 

 

利益を出しにくい

製造原価の中でも陶磁器の原材料(土、釉薬、顔料など)の占める割合はそれほど高くありません。

それよりも水道光熱費と従業員を雇っているところは人件費が高い割合です。

地域、焼成方法、窯のサイズによって全然違ってくるので一概には言えませんが、焼成時のガス代は年々増加しており月に5回ほど焼成すると約10万円くらいかかります。

単純計算で1回の焼成(本焼き)で約2万。これは、私のところも含めて零細企業にとってかなり大きい金額です。焼成は本焼きだけではなく、素焼き、上絵の焼成などもあり、電気窯を使っていれば電気代も別にかかってきます。

 

3㎥クラスの大型窯だと中に入る器の数も多く、ガス代はあまり気になりませんが、小型の窯だと中に入る量が少ないため、下手すれば焼けば焼くほど赤字になる場合があります。焼き物業界では窯単価というものがあって、これは中に入っている器の総額を表し、赤字にならないよう計算して窯を詰めなければなりません。

つまり、値段の低い器だけ入れても儲けになりません。

一般的に、値段の高い器=手間がかかる器なのですが、窯単価を上げるために高額なものだけ入れようとすると、その分制作に時間を要するので、売れるまでの長い間収入を得られません。みなさんご存知のようにいくらいいモノでも値段が高いと買わないですよね。

納期が迫っていて急いで完成させないといけない時は、注文の品じゃなくてもあえてサイズの大きい器を入れて、窯をいっぱいにすることもあります。そのような事情があれば、窯がスカスカの状態でも焼くしかないです。納期に間に合わず信用を失うと、二度と注文がこなくなりますからね。

商品の優先順位、窯単価、器のサイズなど全てを考慮して焼成しなければ儲けるのは難しいでしょう。

 

たとえば、窯単価が50万円で月に2回焼成するとして、1ヵ月辺り約100万円(上代の総額)のものを生み出したとします。そこから原材料費をはじめ、水道光熱費、人件費、広告宣伝費、消耗品費などの経費を引きます。さらに、問屋、小売店に納めるのであれば、そこからもっと少なくなります。

当然ながら残った額が自分の取り分になる訳ですが、経費を引いて20万の利益が出たとしても税金、社会保険料などで結構な額を持っていかれます。贅沢をしなければ生活はできると思いますよ……

まあ普通に、コンビニでアルバイトしていた方が稼げますけどね。

それに、20万の利益というのは、製造過程で1個も失敗することなくしかもすべて売れた時の想定なので、たとえ100万円分の商品を作ったとしても、売れる時もあれば売れない時もあり、実際はもっと低いと思います。熟練の職人でも、成形中に失敗しますし、乾燥や焼成の過程で想定外の事象が起こる時もあります。焼き物は、手を抜ける工程が一切ないのです。

 

素焼きに耐えても本焼きすると腰の部分が垂れたり、土の締めが甘く乾燥中にひび割れを起こしたりと、例を挙げるとキリがないくらい……そのようなことは技術的な問題である場合が多いですから経験を積んでいくことによって解決することもあります。

特に磁器を作っているところは、鉄粉(鉄分を含んだ小さい黒点)が厄介者。

陶石そのものに鉄分が含まれていて、原料工場で脱鉄しても完全には取り除けません。そもそも鉄分なんかそこら中に存在する物質なわけで、気を付けていても混入してしまうのです。白い器に、これがあると目立つので、売り物になりません。

使う分には全く問題なく、小さい鉄粉だと気がつかないレベルだと思いますが、小売店などは一部の人に対しても、クレームになるようなことは排除せざるを得ないので仕方がないことです。最近は、少々の鉄粉なら大目に見てくれる業者さんが増えたので助かっていますが……

 

そうは言っても少なからず、2級品はでます。ではそういう器はどうするのか。儲けになりませんけど、砥部焼まつりなどのイベントで定価より、大分安く売ります。

野菜も同じで、少しでも変色していたり、虫食いの穴があったりすると大衆相手のスーパーでは売り物になりませんから、地元の産直市などで安く売っていますよね。

ちょっとした見た目の悪さで商品価値が下がるのが陶芸の世界です。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

問題が山積みで、厳しい世界だということがお分かりいただけたと思います。

プロの陶芸家は、手先が器用でレベルの高い人たちばかりです。そんな中で戦わないといけませんから、一筋縄ではいきません。

陶芸家として食べていくには、どんな仕事も同じですが、技術、販売力をはじめ経営能力なども必要で、陶磁器業界を取り巻く環境も真摯に受け止め、常に向上心を持って仕事に向き合う姿勢が大事です。

 

陶芸で食べていけない人は、かなり辛いですが兼業で他の仕事をするしかありません。農業、コンビニや食品工場でのアルバイトが多い印象です。私自身、1年ほど前までコンビニで働いていました。陶芸家を目指している人には酷ですけど普通にサラリーマンしながら趣味で陶芸をするくらいがちょうどいいです。

別に、ライバルを増やさないために言っているわけではないですよ。陶芸の世界にうかつに足を踏み入れて、路頭に迷ってほしくないだけです。

陶芸以外の伝統工芸品も似たような問題を抱えています。それぞれの産地、業界が一体となってこの困難を乗り越えなければ、明るい未来はないと思います。